「成功相場大学」① 兜町男児の美学
某氏からこの「成功相場大学」の本のことを教えてもらい、前から読んでみたかった本。
鈴木隆氏は、明治15年に農家の家に生まれ、のちに小学校教師を経て兜町の相場師に転向、さらに兜町の証券界が初めて政界に送り出した政治家となる。(初当選は大正9年)
絶頂期の38歳には時価換算で2200億円を超す資産家となり、常勝将軍と称賛される。ところがその後大敗を喫し52歳でその殆どを失い兜町を去る。
しかし彼は株で儲けるたびに土地などの不動産を購入していたため、
それが戦後の再起資金となり敗戦後の安値の株を大量に買い再度大儲けしたという。
死去は昭和52年、享年97歳。
本は前半200ページの「株式成功大学」と後半の「株式成功哲学」に分かれているが正直なところ、
本の内容が(数字が漢数字だったり難しい熟語が多く)少し難しくて後半はよくわからないところが多かった。
一方で日本語の良さに気づく、人生訓としてもじっくりと読むべき本だなという感想。
相場で成功する為の要素とか相場の波について「日本の言葉」で熱く書かれている。例えば翻訳の本だと“ウォール街のトレーダー”となる所が“兜町男児”とくるとまた違った熱気がある。書出しの「筆者は敗軍の兵であるが─」も実に格好いい。内容も50年前に書かれた本だが現代に十分役立つ様に思った
古きを温ね新しきを知る
株で善く利する者は追敷を考えぬ
即ち、難平するなという事だがいちいち日本語にグッとくる。
孫子に善く兵を用いる者は兵役の国民軍まで繰り出して戦わない。
又、糧食を幾度も国外に輸送しないで戦う。
そして相場を行う者は、資金を失わないよう考えるがよい。
再起不能でない限り、又幾度も乗ずべき機会はある。
戦争するのに国民軍まで繰り出して、人頭、財力を消費し尽して、
再起不能のような、馬鹿げた戦争はしない。
翻訳の書にはない、この表現と終戦後らしい比喩が最高であるし、
終戦後の空気感が伝わる相場本、というものには、今後書かれて残されていく数多の本の中でおそらく殆ど出会うことはないだろうなあ。その意味でも貴重な本であった。
兜町男児、目的を遂行せよ断じて行えば鬼神も退く
著者鈴木隆氏はこう述べます「生活費位で満足しようとする人で兜町で一儲けを志す者は先ずあるまい。そんなケチな考えなら兜町でなくとも天下いたるところ米の飯と太陽はついていよう」と
更に「生活費位の儲けは私の論ずるところでない。大利を博し社会や国益に善用したい」と。兜町男児格好よすぎる
兜町男児の精神は熱い。「資力の充実さえあればと考える者が多いが以ての外、資力が少ない所からも富を成すのが株の妙味で憂うべきは勤勉努力の足らぬ事だ」とか「株で成功する者は常鱗凡介の態度ではならず彼は奇人だ変わり者だと嘲笑されるのに甘んずる事が願わしい」とか抱かれたい一択である。
「男子株に志す大成を遂げん、常に努力と勇気を失わず棺を追うまで積極的に行け」
刺身相場という考え方
鈴木氏自ら命名の売買仕掛け方で魚の頭尾は捨て、魚肉の良いところのみを刺身でいただこうというやり方。即ち利食い八分目である。
- 相場底入れを確認後、保合放れから買い
- 相場天井打ちを確認後、下げトレンドに入ってから売り
[https://twitter.com/monastrattera_/status/759844589746335745:embed#「利食八分目」即ち天底で売買しないということ。他の事業では相場で儲けるよりも概して遅いものであるぶん、それだけ存分十分に利を得ることもあるだろうが、株の場合は儲けの時機が多いぶん早く儲かる為、八分目にしておいても他事業よりも負けないという考え方が成程前向きで良いと思った。]